英語史概観ーその1ー.

英語がどこから生まれ、どのように発展して来たかという過程をたどる事で、一つの言語の誕生と変遷を実例を元に見る事が出来ると思われる。

英語は印欧語族の内の一つとして捉えられている。印欧語族(詳しくは後述)とは、例えば印欧基語を祖先としてそこから発展して来た言語である。

この記事では印欧語族の変遷と英語が其の中でどのように発展して来たかを縦(歴史的経緯)と横(地理的相互関係)の側面を中心にして考えて行く。

 

この記事を書くにあたって特に参考にするウェブサイトとして:

Kevin Stroud氏の"The History of English Podcast":

http://historyofenglishpodcast.com

書籍として

寺澤盾. 英語の歴史. 中央公論新社,2008.

小林標.ラテン語の世界: ローマが残した無限の遺産. 中央公論新社, 2006.

等が挙げられる。

 

特にThe History of English podcastに触発された部分が大きく、これに関してなんとか日本語で補足、説明できないかといったところで学んで来たことをまとめて行くような方法をとっていくと思われる。

 

1.語族という概念:印欧語族とは

印欧語族という概念の中では英語とウルドゥ語は広く見れば親戚同士である。一見奇妙な話では無いだろうか。文字も話されている地域(ヨーロッパとインド)もまるで異なる、そんな言語が親戚同士の関係なのであろうか。

ウルドゥ語の文字は以下のような物である:

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Source: ウルドゥ文字とは−世界の文字 Weblio辞書

www.weblio.jp

それに対して英語はローマ式のアルファベットを採用している。

こんな突飛な話を語族という概念を持って説明して行きたい。

まずは語族という物がなんであるか、どういう経緯で作り上げられたのかという話をしたい。

語族というものは簡単に言えば言語Aと言語Bが同一の言語Xから派生し、発展して来た、という風に共通の祖先から生じたことを表す。

そしてそれを可視化した図が"Language Tree"と呼ばれる。

印欧語族のLangauge Treeの例としては:

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Source: The History of English Podcast, Episode.3 (http://historyofenglishpodcast.com/2013/08/04/episode-3-the-indo-european-family-tree-4/)

この図が分かりやすく示している。この図で見れば、現代英語は印欧基語から派生したゲルマン語派→西ゲルマン語群→古英語から変化して来た。

ドイツ語に関しては西ゲルマン語群までは現代英語と同系統であったがそこから別の変化を遂げた。これには人間の移動、言い換えると地理的な要因が強い影響を与えた。これについては後の記事にて触れたい。

そしてインド・イラン語派の項目を見てみるとサンスクリット語を介してウルドゥ語の名前がある。その他にも大きな言語としてラテン語から発展して来たフランス語やスペイン語、ヘレニック語派であるギリシャ語の名前がある。

これら全ての言語は共通の言語である印欧基語から進化して来たのだ。

印欧語族は語彙的にも文法的にも発音体系的にも共通した部分があり、それらが発見された事によりある一つの印欧基語を祖としてそれぞれに様々な変遷を遂げて一見無関係な言語となって行ったと考えられるようになった。

では類似性とはどのようなものであろうか。欧州言語の語彙的な類似性について言及した図として以下のものがある:

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Source: Teresa Elms(2008),Lexical Distance Among the Languages of Europe,(https://elms.wordpress.com/2008/03/04/lexical-distance-among-languages-of-europe/

)

Data Source: K. Tyshchenko (1999), Metatheory of Linguistics. (Published in Russian.)

同一語派内での言語同士でも語彙的な近さは言語言語で異なる、違う語派に属する言語同士でも 英語とフランス語のような近さを示す物もある。なお、英語に関してはフランス語やラテン語(ラテン語経由のギリシャ語)からの借用語がゲルマン語から受け継がれて来た語彙よりも多く用いられている。

それらの割合はデータにより数字が前後するがおおよそそれぞれラテン語が25~30%、フランス語が25~30%、ゲルマン言語が25%前後、ギリシャ語が5~6%ほどでその他が10%前後である。

Source1: Why is English a Germanic language?

www.grammarphobia.com

 Source2: The Many Origins of the English Language

www.slate.com

では英語はロマンス語(フランス語、イタリア語、スペイン語等)に属するのか。そうではない、確かにゲルマン語派からの語彙は大部分が用いられなくなり、ロマンス語からの借用語が多くなったが、幼少期から学び、日常生活で用いるような所謂基本的な語彙にはゲルマン語の語彙使われている。例えば身体名称や親族名称、数字や基本的な動詞がそうである。英語の会話で最も使われる50語の内他言語からの借用語はフランス語から借用した“use”一語のみである。200語の中では183語がゲルマン語的語彙である。

Source: The History of English Podcast, Episode.3 (http://historyofenglishpodcast.com/2013/08/04/episode-3-the-indo-european-family-tree-4/)

こうした語彙的な面とゲルマン語独自の文法体系により英語はゲルマン語に属する事が認められる。

ではなぜ大部分の語彙が他の言語と似るのであろうか。これを考えるには以下二つの要因を考慮する必要がある:(1)同一地域内での借用語、(2)同一言語からの進化

(1)の、同一地域内での借用語は先の英語の例を見れば分かりやすい。様々な歴史的経緯(ラテン語のヨーロッパに於ける地位や教会、学界、政治で用いられていたこと等)によりラテン語等が英語に流入して行った。

(2)については印欧語族の発見を見る必要がある。では印欧語族はどのように発見されて来たのであろうか。

それを辿るには印欧祖語発見時期の最初期の著名な人物であるウィリアム・ジョーンズ(Sir William Jones)の話を見ることが最良である。

ウィリアム・ジョーンズは法律家であると同時に様々な言語を体得していた言語学者だと言われる。かれが活躍していた18世紀当時、イギリス東インド会社の雇用を契機として彼はインドへと赴任した。その際に彼は当時なかった英語ーサンスクリット語間の直接的な翻訳のシステムを整備するためサンスクリット語研究を行っていた。

その研究の際に彼はインド・イラン語派の古典であるサンスクリット語とヨーロッパ言語の古典であるラテン語とギリシャ語との間に様々な共通点を見つけた。その共通点の特に顕著な例として親族名称である父親を表す語彙の類似性が挙げられる。

e.g.父親を表す語彙(英語、ラテン語、ギリシャ語、サンスクリット語)

Eng.: Father

Lat.: Pater

Gre.: Πατηρ(Pater)

San.: पितृ(pitR)

この例から見てもラテン語(イタリック語派)、ギリシャ語(ヘレニック語派)、サンスクリット(インド・イラン語派)との間で語彙的、音声的な共通点が見られる。

では英語(ゲルマン語派)はどうであろうか、他の言語が「p」音で始まるが英語だけは「f」音で始まっている。これにはゲルマン語派内部で生じた音変化を捉える必要があり、「グリムの法則(Grimm's Law)」や「ヴェルナーの法則(Verner's Law)」を考慮する必要があるが、これらについては後々の記事にて「歯音化(Assibilation)」と詳しくまとめたい。

ここでは英語がゲルマン語派特有の音変化により印欧基語から受け継いだ「p」音が「f」音に変化している事からこれらは語彙的、音声的に関係を持っている事をみてきた。

では文法的にはどうであろうか。ラテン語もギリシャ語もサンスクリット語も屈折語である。屈折語の特徴の例としては、名詞や形容詞に見られる格変化(Declension)や動詞に見られる活用(Conjugation)が挙げられる。

ラテン語は6つの格変化、ギリシャ語は5つの格変化を持つのに対してサンスクリット語は8つの格変化を持つ。

この事に関してウィリアム・ジョーンズはサンスクリット語はギリシャ語よりも完璧で、ラテン語よりも豊富で、そのどちらの言語よりも整備されている、と語っている。

Source: The History of English Podcast, Episode.3 (http://historyofenglishpodcast.com/2013/08/04/episode-3-the-indo-european-family-tree-4/)

こうした言語的な特徴の類似性から、これらの言語は元々同一の祖先的な言語、つまり印欧基語から派生、発展、進化を遂げた親戚関係であるとされる。そしてそれは語族、語派、語群と分類され、よく先のLanguage Treeで以て記述されるのだ。

次の記事では音変化についてグリムの法則やヴェルナーの法則、Centum/Satem言語の話や歯音化に絡めて見て行きたい。